# 二　古くひらけた村と新しい村 ![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/49_1/j01tXLkHX7PRbB2C2lkY2xiKCjBDRORUtYNznCeZ.webp)
##### 古い村新しい村現在、庄川町における大字数は、旧東山見校下一〇（うち山方地区九）、旧青島校下二、旧雄神校下二、旧種田校下五、合計一九である。これらの大字名は、そのほとんどが**江戸時代（近世・一五七〇年代～）における村名がそのまま残されたもの**であるといえる。別表で示すように、近世初期の元和五年（一六一九）には、青島・種田両地区いずれも村立てがなされておらず、二一年後の寛永一七年（一六四〇）になって、ようやく青島・五ケ・古上野の村々が史料にみられるようになり、さらに三〇年後の寛文一〇（一六七〇）になって、およそ現在に近い村々がそろった。このように近世以降にできた新しい村を" **新しい村**"、その前にできた村を"**古い村**"としてこれから記述する。なお、表中の元和五年における各村々の戸数には、藩に年貢米を納めていない百姓は除かれている。（『砺波郡村々家高ノ新帳』による）

### １　壇ノ城とその城下 ***
##### まぼろしの木波村「**木波**(きなみ)」の地名は、庄川町に古くから住んでいる人にとっても耳慣れないものであろう。というのも、加賀藩の史料としてよく知られた『加能越三州地理志稿』にも、すでにその名はみえないからである。この書の克明さは、たとえば金屋岩黒村の小川原・田畑・岩黒といった小字名まで書き上げていることからも容易に推測されるのであり、「木波」の地名が小さいために記載もれになったとは考えられない。
では、木波村（郷）はどこにあったのであろうか。この地名が初めてみられるのは、前述した天平宝字三年（七五九）の『砺波郡伊加流伎野(いかるぎの)地開田地図』であり、そのなかに「木波道」がやや南北に縦断している。また、神護景雲元年（七六七）の『砺波郡井山村墾田地図』には、その南端に「"**往**"**木波村道**」が記され（往は至の意）、同じくその道は井山村を南北に縦断している。この二庄を南北に貫く中央道の名称に用いられた木波村は、当時として相当に大きな集落であったと考えられる。享保二年（一七一七）ころの『金子家文書』の記録のなかに、「天文年中（一五三二～一五五五）の末ごろまで、庄金剛寺村の古城、つまり壇ノ城の西の真下に”木波町”があり、その西に弁財天、そのまた西に雄神神社があった」という。
また、この木波村を中心とした「木波郷」が一時呼び名され、近世のはじめ頃まで用いられていたことを物語る史料が寺院の軸物の裏書などにみられる。それによると、「木波」は「木並」とも書かれ、「砺波郡雄神庄木並郷光教寺」などの標記も見られる。この木波郷の郷域には湯山村も入っていたようである。
これらのことから、木並村は、現在の雄神地区の庄部落をさすのか、あるいは、庄川の数回にわたる氾濫で流失され、現在、その河床となったものか。それは未だに実証できない。庄川の氾濫については雄神神社の歴史で述べたように、庄川は、その古名を「**雄神川**」と呼ばれ、古くは、その主流が井波・高瀬・津沢など西方向へ流れていたから、当時木波村は庄川の水害に影響されなかったのであろう。
この木並村には、京都本願寺の有力門徒である木並光順がいたことが、同寺十世証如(しょうにょう)上人の『天文日記』にみられるほか、砺の雄、石黒又次郎が、木並（波）郷　「常遠」の田地のうち一部を、日蓮宗長寿院に寄進していたことが明らかにされている。いずれにしても、この木波村の消息は悠久の流れ、庄川のみが知っていることかもしれない。

##### 壇ノ城の盛衰雄神橋の東詰、庄川に迫る壇ノ山に、その名も「壇ノ城」と呼ばれる城跡がある。この城は庄村の高台にあるので「庄ノ城」と称したともいわれる。この城について、前述の『**金子家文書**』に、その規模は長さ五〇間（約九一メートル）、横四八間（約八七メートル）で、天文年中（一五三二～）には**石黒与三右衛門**（与左右衛門カ）が居城したとされている。
現在、前述の木並町は不明であるが、城址の南方（上流側）に「上町」、北方に「鉄砲町」などが小字名として残っているほか、城址付近には「台所屋敷」、「馬駈馬場」、「馬蹄岩」などの遺名が残されている。かといってこの地に近世にみる城下町を想像することはできないが、前述のごとくかなりの家並があったことであろう。
壇ノ城址からさらに一・五キロ余り奥に入った**三条山**（標高三三四・五メートル）の一画に"**千代がためし**"という地名があり、ここに本丸があったといわれている。南北朝の内乱の一コマを彩った千代ヶ様(ちよがためし)城がここであり、壇ノ城と同一でないとの説や、壇ノ城・庄ノ城・千代ヶ様城三所一跡との説もあった。近年、専門家の調査で千代ヶ様城の従来知られていなかった位置・規模・形式など新事実が明らかになった。それによると、壇ノ城（庄ノ城）を平時の居舘(きょたち)とみなし、千代ヶ様城を戦時における詰(つめ)の城とみる、いわゆる一城別郭(かく)式の城郭であるという。
したがって、壇ノ城は城としての形式は整っておらず、千代ヶ様城はかなりの要害の地にあり、中世の典型的な山城で、砺波平野を一望できるなど好条件が整っていた。築城年月は明らかでないが、築城形式からみて南北朝時代（一三三二～）のもので、砺波平野では、井口城・野尻城とともに、桃井直常(もものいただつね)の一大拠点であったといわれている。
この壇ノ城などが、南北朝の抗争で軍忠記などに名前が出てくるのは、貞治元年（正平一七年・一三六二）、幕府から越中守護職（領主のもとで軍事と警察権を任された武将）に任じられた斯波義将(しばよしまさ)が、かつての守護職**桃井直常**の討伐のため、庄城・野尻城などを転戦し、桃井軍は敗走したこと。また、応安二年（天平二四年・一三六九）四月、桃井直常らの軍勢が能登に乱入したのに対し、能登の守護吉見氏頼は反撃を加え、逆に追撃に出た。桃井直常・直和親子は防戦にまわり、同月二四日には千代ヶ様城・井口城などが次々に陥落、新川郡の松倉城（魚津市）に退いた。その翌年には桃井氏一族は幕府軍に大敗、没落の一途をたどった。
時代は下って、戦国時代末期、織田勢・上杉勢に、佐々成政、地元の神保・石黒一族にさらに瑞泉寺など一向宗徒などが入り乱れて争ったが、天正八年（一五八〇）、庄城主石黒又次郎は、初め神保長住と手を切り上杉方に味方しようとしたが、情勢の変化で、それまで反目していた同族の**石黒左近蔵人**（木舟城主）と和睦し、さらに神保氏とも組んで織田方となった。なお、前述の『金子家文書』に出てくる石黒与左右衛門は、石黒左近の家老である。そのほかにも、数回の兵火にかかり、陥落・再建・陥落を繰り返したであろう。

##### 庄と金剛寺村今の庄区域は、雄神村合併（明治二二年・一八八九）前の庄金剛寺村のことで、合併後も大字金剛寺村となっていた。この村も近世初期の元和・寛永の頃には**庄村**と**金剛寺村**と別村であった。そのことは、産上神(うぶすながみ)（人が生まれた土地の守護神）である村社が、「阿羅町(あらまち)神社」と金剛寺地内の「神明宮」の二社があることでもわかる。そのほか、それを示す旧記を紹介する。
○今庄村といえども、旧名は雄神庄村なり。村方伝説に往古より雄神庄村・金剛寺村とて両村のところ、天和年中の検地の節、両村を合併せられ、庄金剛寺村という村名に相成といえども、今に至り庄村と金剛寺村と村落二ヶ所に成由申伝といえり。按ずるに天和（一六八一～）は、元和（一六一五～）の誤なるべし。（越中志微）
○庄村・金剛寺村は元二村なり。今は一村なり。この村は庄川の山より出て流れ口の東岸にありて、山下に添ふ村立なり。このところ、城端・井波より中田・富山への往来道にて、庄川に渡し舟あり。藤懸の渡しという。水勢逆転して難路なり・・・・・（越中地名考・越(こし)の下草(したくさ)）
○庄村。金剛寺。右庄村の由来相知り申さず候。金剛寺村は往古金剛寺と申す寺御座候に付、村名になされ候申し伝候。正保・寛文・貞享の高帳には、庄村・金剛寺村と二ヶ村に記し御座候。（郷村名義抄）
このように、両村の合併年代には諸説あるが、その後の新しい史料（金沢市立図書館蔵『砺波郡高物成田畠帳』）によると、正保三年（一六四六）には、金剛寺村に庄村を編入、一村となり、さらに二四年後の寛文一〇年（一六七〇）『村々高物帳』には、村名を「庄金剛寺村」と呼称するようになったとみるのが妥当であろう。

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑦

〈地名のルーツ＝庄川町〉 榎木淳一

〈地名のルーツ＝庄川町〉　榎木淳一