##### 金剛山と恩光寺文明（一四六九～）以後、北陸地方に急激に勢力を張った**浄土真宗**（一向宗ともいう）教団に対して、加賀国守護富樫氏らが、領内の真宗寺院や門徒衆を迫害・追放したことが原因となって、一向宗徒の結束をうながし、一向一揆に発展していった。文明一三年（一四八一）三月の田屋川原（福光・福野堺の山田川）の戦いで、南砺の名門土豪、**福光城主石黒氏、増山城主神保氏**はことごとく一向一揆に敗れ、医王山・井波周辺の**天台宗系寺院**は壊滅に追いやられた。
このとき、金剛寺村にあった神保氏の菩提(ぼだい)寺、曹洞(そうどう)宗金剛山恩光(おんこう)寺も一時滅びてしまった。また同村西蓮寺も、しばらくの後、天台宗から一向宗に転宗したと伝える。同寺の由緒書に「**永正元年**（一五〇四）、**天台宗金剛寺教誓**(きょうせい)**なる者、本山**（本願寺）**第九世実如**(じつにょ)**宗主に帰属し、寺号を西蓮寺と改称す。**・・・・・・」とある。
いま福野町にある金剛山恩光寺は、もと庄川町の金剛寺地内にあった。それらをひらいたのは、増山城主の神保氏であり、中新川郡立山町の眼目山立山寺(さっかさんりゅうせんじ)から月桂立乗(げっけいりつじょう)禅師を招き、金剛山の一画に一寺を建立し、菩提寺とした。その年代は諸説あるが、応永一五年（一四〇八）ごろとされている。
さきの一向一揆の騒乱は、恩光寺五代珠山超作和尚の時代で、兵火は恩光寺にも及び、六代明室存光和尚は寺を出て井波に草庵を結び、常永寺の開山となった。それからは、金剛寺村における恩光寺の無住（住職がいない）時代が一四〇年間もつづき、衰運の一路をたどった。さらに天正七年（一五七九）の夏、**長尾為景**（後の上杉氏）の兵火にかかり朽ち果てた。
福野の町立ての翌々年（承応元年・一六五二）に大火があり、**阿曽三右衛門**が荒廃した恩光寺を福野へ移そうとしたのはその翌年であった。金剛寺村の跡地には庵室を建て、**知浄**(ちじょう)という僧を残して遺跡を守らせた。この庵は宝永年中（一七〇四～）まであったという。いまこの旧跡には薬師堂が残り、目周り五メートルと四メートル余りの杉の大樹が二本左右にそびえている。寺跡は「寺屋敷」といわれ、付近の山林一帯を「**知浄**」と呼んでいる。ここには門前屋敷もあったらしく、うち二、三軒は恩光寺の移転と同時に福野町へ移ったという。
恩光寺のあった東の山側に崩れかかった塚があり、土地の人は「**宗半塚**(そうはんつか)」と伝えている。宗半とは、**中川光重**の退老後の名で尾張（愛知県）生まれの武将である。後に加賀藩初代藩主となった前田利家の女婿ともなり、慶長一六年（一六一一）に退老、養老俸四千石を受け、三年後に五三才で没した。
中川宗半が恩光寺に関係を持つのは、前述の一四〇年間の無住時代に当たり、宗半が増山城代となったとき（年代は諸説あるが、文禄・天正年間）で、一時滅びた恩光寺に重ねて寺禄を寄進し、同寺の再興をはかったという。そして老後恩光寺に退き、死後同寺に葬られたと伝えられている。しかし、いずれも決定的な史料がないのが残念である。

##### 西行と三谷の里三谷の県道脇に**西行**(さいぎょう)**塚**といわれる一画がある。この塚には高さ一・七メートル、幅〇．九メートル、厚さ〇．四メートル余りの歌碑が立っている。この西行塚は県道が拡幅改良される以前はもっと大きく、そこには、**西行桜**という老木があり、近くに西行庵跡といわれるところもあったという。碑面には、梵字(ぼんじ)（キリーク）の下に「十方三世仏　一切諸菩薩　八万諸聖教　阿弥陀仏」と四行にしるされ、さらにその下に次の歌がしるされている。
もろともにながめながめて夜の月ひとりにならん事ぞかなしき　　　西行
道柴の露の古へかへりきて馴れし三谷の里ぞ恋しき　　　　西住
年号として、嘉応二年　亡霊菩堤　としるされている。
この詠まれた歌の原文については諸説が多く、また、歌碑に刻まれた年号嘉応二年(一一七〇）をそのまま信じるならば、県下で最古の歌碑ということになる。ところが、高岡市戸出地区大清水にある永願寺の境内に三谷の歌碑とよく似たものがある。
この説明として、近世の中ごろの越中の地誌『**越の下草**』などから判断すると、永願寺にあるものは明らかに古く、年号は読み取れない。これは、もとは三谷村にあったものであるが、慶長一六年（一六一一）、大清水村に御亭を建てた際に、庭石として集めた大石・奇石のなかに誤ってまぎれこんだものであるという。このことが後にわかって、両村で奪い合いとなったらしいが、永願寺の僧が御奉行に願って、ここへきたのも何かの因縁であるから長く供養したいとして認められた。三谷村では、近世の中頃（一七〇〇年代）になって、永願寺にある石碑に似せ、さらに歌を刻んでもとの地に再建したものであろう。
しかし、近年専門家によって明らかにされたところによると、永願寺の石碑については年号もなく、歌も刻まれておらず、また、西住の文字があるが後の追刻であり、この石碑の造立当時の性格は、西行とはおよそ関係のない像仏起塔の利益（りやく)を信じてつくられた塔婆(とうば)（墓の類）であったであろうという。年代は南北朝あるいは室町時代初めであり、文面からみて自衆（宗）関係の供養塔であろうといわれる。これらのことから、西行と三谷の里とは直接結びつけることはできないというものの、中世末期、あるいは近世初期に、三谷村の文人によって、それまでの「伝え」を石碑に託したのではあるまいか。
**西行法師**は、在俗のころ、佐藤左兵衛尉義清といい鳥羽院北面の武士であったが、後に出家し、歌一筋に諸国行脚の旅をつづけた、中世の代表的な歌人である。また、**西住**というのは西行の愛弟子、あるいは友であったともいうが、この西住の生まれたところが三谷村と伝えている。『雄神村誌（大正一三年発行）』には次のようにしるされている。
西行法師この地に巡り来られし折、当時出身の西住の知能を試さんため、西行法師は「折り燃かん無明の山の柴枝を」と口すさみし折、西住直ちにその下句を「ふた谷の奥三谷川まで」と続けた。これより西行はいたく西住の才能を賞讃し、これを村人に語りしより、この村を「三谷」と呼ぶに至りしなり。その三谷とは「一の谷」「谷内(やち)谷」「尾の谷」の三つの谷をいうなり。・・・・・さらに同誌に
西行法師行脚して諸国を巡り、嘉応二年その弟子西住なるものを召し連れ、西住が郷里なる三谷村に至りしに、偶(たまたま)西住病にて死せり、西行大いにこれを追悼し小さき庵を建て、中陰七週日の業を行い、塚を築きて骨を納め、その上に石碑を建て、その傍らに法師手向の花として桜花を植えり。土人呼んで西行桜という。・・・・・・
これらの伝説・史実の”より分け”は別としても、この三谷の里は、古く東大寺庄園「井山庄」とも関係あっただろうし、その他、南北朝時代、康永元年（輿国三年・一三四二）、鎌倉覚園寺の文書目録のなかの「越中般若野庄内三谷等寄進状」にみられるように、古くからひらけていたことを物語る史料は多い。
『雄神村誌』にある「この地は昔時多量の灌漑水を出したるにより、庄川東流せざる以前、即ち天正十二年までは般若郷とて、谷内川の東岸に散在せる四十八ヶ村の灌漑水を給与せし水源村なり。その後の沿革詳細ならざるも、明治二十二年三月、町村制実施以前、三谷西島六十八石余は庄川を挟んで一村となりおりたりしに、後太田村に合併せられ分村せるなり」は、三谷村の史実を伝えるものと思われる。
明治二二年（一八八九）の町村制実施に際して、庄川対岸地域との分村問題は、三谷村だけでなく、庄金剛寺村でも深刻な問題であった。庄の対岸、砺波市中野地区の庄川辺には、今も庄川町庄（西領）があり、その一画には料理旅館「山田や」があるほか、民家も二軒（行政区は砺波市に属している）ある。これらのことから、旧雄神村領域は、数回にわたる洪水で流失、さらに松川除築堤などによって、流れを東側山麓に固定される以前は、現在川の河床域を含める広大なものであったことがわかる。
これをさらに統計的に示すならば、近世のはじめころ（一六五〇年頃）には、庄金剛寺村の草高(くさだか)（領域からの米の産出量）は八五〇石（米一石は一五〇キログラム）、三谷村は一、三〇〇石であったものが、**松川除築堤**（一六七〇～一七一四）なった後には、庄金剛寺村は三九〇石、三谷村は六七〇石と、いずれも半減してしまった。つまり、祖先伝来の美田が庄川の川底に埋没したことになる。なるほど、松川除築堤など、加賀藩の英断で砺波の穀倉地帯の誕生をみた反面、庄金剛寺村や三谷村など庄東地域の村々は”泣き”をみたわけである。

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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