##### 金屋の鋳物師今でこそ鋳物といえば、すぐに「**高岡**」といわれるほど高岡の鋳物業は有名になった。しかし高岡に**鋳物師**が定着し、鋳物の生産が集中するようになったのは、近世以降のことであった。中世における越中の鋳物業は、京都の『**東寺百合**(とうじゆり)**文書**』のなかで、建暦三年（一二一三・鎌倉時代初期）の史料などにみられるように、射水郡や砺波郡にあった。
中世における庄園制の発達は、一方で産業の分化をうながしたが、交通・運輸の思うにまかせない時代において、金属工業は原料の産出される地において、原始工業の域をでない状態で発達しているに過ぎなかった。
古い時代の砺波郡の地域には、”**庄金屋**”（庄川町）・**西部金屋**（高岡市戸出地区）・**金屋本江**（小矢部市）・**高宮金屋**（福光町）などの地名がみえる。史料にみえる砺波郡の金屋とは、いずれの金屋をさすのか。これには定説がないまま現在に至っている。
今でこそ、庄川は幾多のダムや堤防により整然とした流れを見せているが、かつての、自然の勢いのままに奔流していた時代にあっては、庄川のあちこちに砂鉄の産する洲があったことであろう。そして近くに大量の薪を産する山々を控え、となりの井波には天台宗**止観寺**(しかんじ)や浄土真宗**瑞泉寺**の需要先がある。
現在の庄川町には確かな文書もなく、**金屋**とか**鍛冶屋橋**(かんじやばし)などの地名しか残っていないが、この地に”たたら”の煙がのぼり、鍛冶屋のつちの音が響いていたとしても不思議ではない。
前述の「**庄金屋**」については、他の「○○金屋」と単に区別するためのものではなく、**雄神庄**(おがみのしょう)域の金屋という意味か。各地の鋳物師の住んだという金屋は、いずれも城下でも城と川を隔てて（火事の発生が多いため）あることが立証されている。なお、史料でみられる”庄金屋”の初見は、文禄三年（一五九四）第二代藩主前田利長が「**庄川流域の材木を”庄金屋”の土場に集めよ**」と下した文書である。

##### 綽如上人と前山京都本願寺五代**綽如**(しゃくにょ)上人が井波の地に瑞泉寺を建てたのは、南北朝の末、明徳元年（一三九〇）であるが、それ以前は、すでに杉谷（今の前山）に庵(いおり)をかまえ、下原・栃原を通って平村など五ヶ山方面に布教していたといわれている。このことは瑞泉寺五代賢心が書いた『**賢心物語**』にしるされている。当時の五ヶ山方面への道路は、井波－岩黒－渡村（前述の舟戸）－庄川を渡り－名ケ原－落シ－湯山を経て今の利賀方面へ行くものと、井波－岩黒－前山を経て平村方面へ行くものと二本あったと考えられる。
ところで、杉谷の地名について、『**瑞泉寺記録帖**』には、杉谷のことを「今ノ前山村ナリ。天正（一五七三～）ノ頃前山村ト改ム」としるしていることから、綽如上人は今の前山を当地方の布教の根拠地に選んだものと考えられる。したがって、現在杉谷といわれているのは、明暦二年（一六五六）に村立てされた「**杉谷新村**」のことで、前山村や対岸の**仙納原**(せんのはら)などの人々によって、新しく開墾された、いわば前山村の出村といってよい。
これらのことから庄川町地内に、綽如上人の遺跡や説話がいくつかある。その代表的なものに、杉谷村（前山村）慶善が綽如上人を迎えたのが、現在の前山、上村家であるといわれ、井波に瑞泉寺が建立された後も、上村家が説教場として使われ、沢山の善男善女が集まったという。
上村家の前にある”**つなぎがや**”は上人が手植のものと伝えられているが、近年道路拡張のため切られ現在あるものは二代目であるという。”つなぎがや”はイチイ科の植物であるが、実は野生のガヤと全く同じであるが、孔(あな)があることなどで砺波地方では不思議の一つとなっている。実を煎じて飲むと難病も直ちに全快するといわれ、福野町田尻にも同種のものがあり、同町の天然記念物となっている。
また、岩黒にある**瓜裂泉**(うりわりしょうず)（清水）は、杉谷の庵から地方教化に出かけた上人が、この地にしばらく休息した際、駒の蹄(ひずめ)が突然陥没し、その跡から清水がこんこんと湧きでた。この霊泉に教化の徳に慕い寄る里人が献上した瓜を冷やしたところ、瓜は自然に裂け、その冷たさとおいしさは格別であった。上人はことのほか満足し、自らこの清水を「瓜裂泉」と名づけたという。その後霊泉として地方にまれな清水とたたえられ、炎天連日にわたる大干ばつのときも、枯れることがなく現在に至っている。
さて、前山村の「前山」とは、井波町の東前方、お日さまののぼる山ということか、あるいは庄川の下流の村々より上流奥山に対して、前山と呼んだものと思われる。

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑩

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