### ４．旧河川跡の開拓と新村の成立 ***
砺波平野の草高が加賀百万石に占める位置について第2表を中心に述べたい。 ![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/wurtTLx0BgRPVjye2umTbx1sXYyttAWr65E9DAz1.webp) 正保4年(1647年)の加賀藩は1,046, 497石6斗8升2合の草高で、そのうち****砺波郡の占める割合は******19. 3** %の202,111石8斗4升が記録されている。ここでいう砺波郡の領域は、現在の砺波、小矢部の両市、東西両砺波郡のほか,、高岡市の一部の中田、戸出などが含まれているが、農政上の変革(手上免など)があったとはいえ、その伸び率は著しい。200年後の明治3 年まで7万石余、約35 %の伸びとなった。
これらの草高の伸びを新村の村立ての歴史にみたのが第3表である。庄川の河川跡の野尻川筋、中村川筋、新又川筋、千保川筋について、 1800年を50年前と50年後に分けてみたもので野尻川筋から順に千保川筋がひらけていったことがわかる。特に野尻川筋では、表の7つの新村のほか、高堀、野村島、苗加、鷹栖、水島、下・後丞などの旧村で、正保3年には4,306石の新田高が記録されている。また中村川筋でも、東中、西中、金屋本江の3村でも1,270石が記録されており、両川筋がいかに早くから開拓が行われたかうかがい知ることができる。 ![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/QTXfeWawQErjm8RP3W2eFnngkJPcM8Zhd2cGr8dR.webp)
ところが、遅くひらけた千保川筋の新村14 カ村の総草高は、およそ5, 500石程度となるが、砺波町村資料に基づく第4表＜庄川沿岸における草高の減少＞によると、庄川の東遷により、旧村の引き高は5,600石余を記録し、新村で増加した分と差引きゼロとなった。
![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/bE3O0buuluQ3QYQtUn0KMSPZg0V9DTqGvhYREuq5.webp)
これらを庄川町域のみについて、その増減を図示したのが第3図で、庄金剛寺村、三谷村については、**松川除堤防締切後の草高が半減した**のにくらべ、千保川筋の高儀新、古上野、五ケの各村々が著しく増加していることがわかり、庄川町域にあっても庄川の東遷は、功罪相なかばという結果になったといえる。
![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/6FJVHDvTcaCoW8BpV07Lql2czy3Riu8Sk184Vja3.webp) 松川除築堤完成の12年後である享保11年 (1726年)、砺波郡の村々の共同責任で約300町歩の開拓を請負ったものの、何ぶんにもまだ新しい川原ばかりで開墾は不可能であったとの記録がある。ところが文化年間(1804年〜) ともなると、他郡の者が新開願いを出すに至り、砺波郡でもそれに刺激されて本格的な開拓が始まった。このことは、五ケ村(庄川町)の数通の新開文書(庄川図書館蔵)からもうかがい知ることができる。

### 5．地名にみる古い村と新しい村 *** 前述の『村々のおこりと地名』のなかでも記述しているが、大字、小字の地名をみると、明らかに歴史の新旧がわかる。庄川町の旧村のうち雄神村、東山見村の地名には宗教的なもの、歴史、産業に関するものが多くみられる。種田、青島村では、**地名に「島」がつくことが圧倒的に多い**こと、これらはすべて**河川跡の荒地の開墾、治水、用水に関するもの**であることが多いといえる。
大字については第3表、第4表でみられるように、そのほとんどに「新」　「出」がつけられているが、大字名で変わった例を紹介したい。
庄川町に「古上野」という地名(大字)があるが、『郷村名義抄』に「昔、上野村。千保川の洪水で退き、高堀村、長源寺村、墓浦村の領内へ引き越し、別に上野村を立てた。洪水が引け、元和3年(1617年)元の村へ帰って荒地を開墾して一村立てした。」という。すなわち、福野町の上野村より、庄川町、古上野村が新しいというわけである。古上野村文書(庄川町立図書館蔵)には、元和から寛永年間にかけての新開に関する文書(1618〜1626年)が10通もあり、それを立証している。
![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/8JlcAgOfR3vXvj3aHYTvMp2tmoUpG37W61F1a4HI.webp)
先に触れた「島名」を、庄川、井波の両町について第6表にした。この表でもわかるように、庄川町種田地区では小字数74のうち、なんと81%、井波町山野地区でも74%の多きを数えている。古い村といわれる東山見地区では0%、井波地区については6%の謹少である。これらの状況から、小字の「島名」は新開地の代表的な地名といって過言でないといえる。
![](https://das-tonami.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/das-tonami_geoa_tech/article/100/39_1/Bd7moJPymn18AJFsnA6Jz1KLytzK4m1ErIX0uJLG.webp)
ところで一般には、「島」とは海に浮ぶ島、あるいは「川中島」のごとく二つの川に挟まれた土地のように思われるが、単に区画を示すもの、すなわち普通名詞といっていいのでないか。ただ前述のごとく、いつの洪水でも流されない比較的安住の地、**川原の中でも微高地を中心に開拓拠点となった土地**が「〇〇島」として名づけられたとみてよい。
「島名」について庄川町の例をみると第7表のようになるが、それぞれに由来がある。それを示すものが位置・方向、場所•形状あるいは開墾者の名であったりする。「鍋蓋」、「茄子」にしても形状だけでなく、小さい土地を示すものかもしれない。「樋掛島」という小字は庄川町のみならず、砺波地方に多く見られる。低位の廃川地の上を、樋を掛けて用水を引き新開した場所であることを物語っている。
「今保(こんぽ)島」という小字が庄川町天正にあるが、所有者の言によると廃川地の極く狭い土地であることから、作物「ごぼう」あるいは「棍棒(こんぼう)」が転訛したものかもしれない。
福野町田尻地区に、「一番島」「二番島」から「十番島」まで連続している小字名や、同町安居地区入会地に「い」「ろ」「は」……「と」という小字名があるが、山間地とはいえ、合理的な呼祢という人がいるが、歴史的な内容が感じられずさびしい思いがしてならない。

### ６．おわりに ***
地名が貴重な文化遺産であること、その地名が現在、圃場整備事業完了後に換地され、どんどん失われつつあることを前述したが、地名が消诫あるいは改変されるのは圃場整備によるだけではない。住宅団地の造成や都市計画による新町名の誕生、行政区の再編成というお役所的発想による統合、吸収などによる珍名の誕生、さらに新興地には、どこの市や町にもみられる「〇〇ヶ丘」という町名にはガッカリさせられる。
地名は、人間が住みつくと同時に、その土地がだれのものかという地籍の表示として命名されたものである。今全国的に地名、町名の存続運動が履開されているが、一向に実が上がらないといわれている。
現在、砺波地方ではどんどん地名が消えつつあるが圃場整備事業の推進による時代的すう勢と亮過していいだろうか。
今、遅まきながらこの地名の記録保存に着手したばかりであるが、次のブロセスによって作業をすすめていきたいと考えている。　①　砺波地方の大字・小字の一覧表の作成　　　(圃場整備以前と現在のものの比較) 　②　字名の正確な呼び名の調査　③　現在の地図にその位置を示す　④　地名のおこり、いわれの調査
しかし、この作業は私～人ではとてもできなく、研究員の諸兄をはじめ関係者の絶大なるご協力、ご支援を願わずにはいられない。
これらの地名のおこりやいわれを知ることは,、私たちが生まれた土地や住んでいる土地に対する愛着を深めるものであり、地域連帯意識の向上、新しいコミュニティづくりにもつながると思うからである。 (えのきじゅんいち庄川町教育委員会)

※　このページは、榎木淳一「庄川扇状地の開拓と地名」『砺波散村地域研究所研究紀要第2号』 (1985年)を転載したものです。

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庄川扇状地の開拓と地名②

－失われゆく地名の保存を願って－