# はじめに
##### 地名は文化遺産 *** 地名は、人間が住みつくと同時に、その土地が、だれのものかという地籍の表示として命名されたもので、庄川町における地名にも、中世の庄園制度や、近世の開墾の名残りのあるものが多く見受けられる。

現在、庄川町土地台帳に記載されている小字名だけでも二〇五もあり、その他大字名•俗称地名なども含めると、三〇〇に達するかも知れない。これらの地名は、いずれもその土地の歴史を物語っており、「**地名は貴重な文化遺産**」であるといえる。

これらの地名の”おこり”や”いわれ”を知ることは、私たちが生まれた土地や住んでいる土地に対する愛着を深めるものであり、最近とりざたされている「地域連帯感の欠如」を是正し、「新しいコミュニティづくり」の一助になるものと思う。

##### 庄川と人間生活 *** さて、郷土「庄川町」が示す地名のおこりを云々する前に、私たちの先人が、いかに庄川の流れと戦い、庄川を制し、あるいは利用して、そのほとりに住みつき、生活が営まれてきたかを知ることが、より大事であるといえる。

そして、それを物語るものは、やはり地名であるといえる。そのおこりが、庄川と関係ある地名は、三〇〇を数える町域の地名の半数を占めるといって過言でない。

天気のよい日、牛嶽あるいは鉢伏山など、その頂へ登って眼下の平野を見渡すとき、緑の平野をうねりながら、ゆるやかに流れる庄川が、太陽の光に大いなる銀蛇かと”まがう”ばかりに、目を見張ることがある。
庄川は、その源を岐阜県の烏帽子岳付近に発し、新庚市で富山湾に注ぐ、その流長は一三二キロメートルに及ぶ富山県の代表的な河川である。この庄川の治水がなる近世以前の砺波平野は、一雨ごとの河身の変貌によって、数限りなくパンチを食らってきたことは、多くの史書の物語るところである。

当時、現今の豊かな砺波平野を予見した者がいたであろうか。古代における集落の位置をみても、多くは山麓か山間、または小高い丘の上を選んでおり、いずれも水害による恐怖から逃れるための生活の知恵がうかがわれる。

しかし、川を恐れてばかりいたのではない。水の平穏なときは、糧を求め、あるいは、別のユ—トピアを求めて、川を上下した者もいた。かの原始の”庄川びと”は、かつての庄川縁の松原の地に居を構え、マスなど豐富な川魚を糧とし、縄文文化を育て、残してくれた。

##### 私たちの祖先 *** 前述の”庄川びと”は、私たちの祖先となり得なかったであろうことは、周知のとおりであるが、それでは、現代の私たちの祖先、この郷土を一番最初にきりひらき、村をつくった人々はだれか、そして、いつ頃か・・・・・。

それは、庄川のみが知っていることかもしれない。いや、庄川の流れとともに綿々と現在につづく雄神神社の「大神様」もご存知かも・・・・・。

本書は、この**郷土の**”**あけぼの**”に想いをめぐらし、原始の庄川びとの生活文化、そして、古代社会となって、村々がいかにひらかれてきたか。また、それを物語る地名について、考察を試みようとしたものです。拙書を読み終えたとき、私たちの住む町が「庄川町」と名づけられた”ゆえん”をご理解いただければ、これにすぐる喜びはありません。

もとより、研究書とか歴史書といった類いのものでなく、だれにも寝ころんで読んでもらえるよう心がけたつもりですが、その点粗漏は多々あるでしょうが、諸兄のご叱声、ご指導を賜るようお願い申し上げます。
昭和五十四年十一月　著者しるす

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

お知らせ

村々のおこりと地名①

〈地名のルーツ＝庄川町〉 榎木淳一

〈地名のルーツ＝庄川町〉　榎木淳一