### ４　新しい村々の誕生 ***
##### 近世の村のおこり共同体の村はどのようにして生まれたのであろうか。一般的には庄園の崩壊にともなって、地域を同じくする家の群れが氏神のまつり、農作業、用水などを共同で取り入れる必要から共同体として「村」が成長してきた。
一方、加賀藩も「村」を行政の末端単位として利用したので、近世に入ってから急速に充実整備されてきた。したがって、当初は家の群れのまとまり、つまり村の範囲は必ずしも明確ではなかったようである。近世初期において、村々の統廃合が後述のごとく多くみられることでもわかる。
加賀藩は、慶安の頃（一六四八～）から、新しい農政を施行して、年貢の納入の責任を「村」へ課せることにした。いわゆる「**村御印**(むらごいん）」が村ごとに下付されることとなり、必然的に村の範囲が固定されるようになったわけである。この固定するまでの過程にいくつかの型がみられるが、最も一般的なのは自然発生的な集落が、そのまま近世の村へ成長したものである。その二は、共同体として未成長ないくつかの小さな集落が隣接している場合、それが寄り集まって一つの村を形成する場合である。この合併には藩の意図が明らかにみられる。庄川町域では、後者の例として前述した「**庄金剛寺村**（庄村・金剛寺村）」や「**金屋岩黒村**（金屋村・藤かけわたり村・岩黒村）」がある。
さて、近世初期の元和五年（一六一九）から寛永一七年（一六四〇）までの二一年間の様子をみると吸収してなくなったのが「**藤かけ渡り**」の一村と、新しくできた村は「**青島**」・「**古上野**」・「**五ヶ山新**」・「**二ツ屋**」の四ヵ村である。またその直後、正保三年（一六四六）の高物成帳（草高に対する年貢を示すもの）をみると、領内の村々が統廃合していることがよくわかる。
庄川町域では、**筏新村**（草高二七石）と**五ヶ新村**（約二〇石）の二村が**古上野村**へ編入（三村合わせて約一〇五石）、**隠尾村**（約四六石）が**横住村**へ編入（二村合わせて約一〇四石）、また、このときすでに**金剛寺村**（約四二六石）は、**庄村**（約四二六石）を合わせて大村となっている。そのほか、正保三年の史料にみられるものに「**青島新村**」がある。同村の草高は約四〇石で、西部(にしぶ)金屋村に編入せられている。
西部とは現在の西保(にしぼ)金屋（高岡市戸出地区）のことで、その頃の庄川辺りは、洪水のたびに河身が変わり、川くずれを生じ、その廃川地帯は次第に広がっていた。しかし一方、この廃川地が開墾されて一村立ての村も誕生した。
近世の史料【川合文書】に、承応四年（一六五五）三月、西部金屋の鋳物師(いもじ)少右衛門・藤兵衛の二人は、庄川筋の空地、旧上野川原一、二〇〇歩の開墾を申請して、一〇軒の新村を立て「**青島新村**」と称したという。この青島新村は西部金屋村の飛地として吸収合併されたが、その後、寛文一〇年（一六七〇）には地理的な条件から金屋岩黒村に合併されたという。この一〇軒をもって村立てした青島新村とは現在のどこをさすのか、現在の金屋舟戸地内から、青島松川除地内にかけて、古くから金屋川原・井波川原・庄川原・四ケ川原（四ヵ村共同管理）・十一ケ川原などがあって、それぞれの村は川原に流れつく木呂などを拾うことができる権利などを有していた。
青島中之島地内に現在、小字名で「**下川原**(したがわら)」という地名が、広範囲にある。「下」は何を中心にしたものかわからないが、そのところどころに「**庄新村**」・「**示野新村**」の飛地があることから新しくひらけた地域であることがわかる。また、「**畑直**(はだなおし)」も荒地（畠）を田地に開墾することをいい、古い村「金屋岩黒村」のなかでも新しくひらけたところといえる。

##### 青島は『オホ』の島か庄川には古くから野尻川・千保川など数多くの分流があったことは前述のとおりである。その中洲の一つに、土地は肥沃(ひよく)で、青々とした草むらの繁った島を形づくっていたところがあった。この一画を「**青島**」と名づけられたという。
【郷村名義抄】に、「この村に先年、庄川の中の島、青島と申すところ、元和七年（一六二一）新開仕(つかまつ)り、対立申すにつき、青島村と申候」とある。この中の島は、庄川の中洲と解釈していいが今も、字(あざ)名としてではないが、二万石用水路より南を『**中之島**』（小字名は”下川原”が多く占めている）と呼んでいる。
この「**青島**」は、近世初期の新開によって村立て、人々が初めて住むようになったのだろうか。今では雄神地区（金屋舟戸の対岸を含む）と庄川を挟(はさ)む対岸に位置しているが、かって、『**オホ族**』が雄神の地に初めてその足跡をしるした頃は、もちろん青島は庄川（雄神川）の中洲であった。数回にわたる流路の変遷、川くずれによって、その原形は全く残されていないが、この中洲に『オホ族』が住んでいたとしても不思議ではない。「青島」は「『オホ』の洲(しま)」の転訛(てんか)がもたらしたもの、すなわち、「『オホ』島」かもしれない。
この青島村は、「新町村制」が施行された明治二二年（一八八九）になって示野新村・示野出村を編入した。この二村は現在、大字(おおあざ)名「**示野**」となっているが、大字「**青島**」は大正三年（一九一四）から駅を中心に「**上村**(かみむら)」と「**下村**(しもむら)」に分けられた。下村は今も「**下**(しも)**青島**」と呼ばれているのはその名残である。上村のうち、二万石用水路より南を「**中之島**」と呼ぶのに対し、北を「**権左**(ごんざ)**島**」と称している。
また、明治五年（一八七二）の青島村の戸数は一六三であったのが、一〇〇年余を経た現在、三倍強の五四三世帯を数え、その増加率は庄川町域の最高を示している。（金屋は二番目で二倍弱）

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑬

地名のルーツ＝＜庄川町＞榎木淳一