##### 庄川の治水と松川除庄川左岸、庄川町青島から砺波市上中野を経て弁才天社（庄川町庄地内）までを「**弁財天前川除**」、後に松が植えられて「**松川除**(まつかわよけ)」と呼ばれるようになった。そのうち県道新湊庄川線となっているのが二番堤で、現在も松並木がみられる一番堤に比べて、昔時のおもかげがなくなったのが残念である。
庄川扇状地の開田をすすめるには、分流する川筋を固定した一本の河道にすることが重要であるが、それには大がかりな土木工事が必要であった。寛文一〇年（一六七〇）、加賀藩は分流を一連の強固な堤防で締め切り、庄川河道を従来の支流、中田川一本にまとめることができる「**弁財天前**」を選んで、延長約二、〇〇〇メートルに及ぶ二条の雁行(がんこう)する大堤防の築造に着手した。
締め切りに最も困難な場所は藩直営の工事とし、比較的簡単な場所は農民に請負わせて工事をすすめた。工事中も度々の洪水で欠壊したが、中断せずに続けられて正徳四年（一七一四）まで、四五年の歳月と、延べ一〇〇万人に及ぶ労力と、巨額の費用を積み重ねてついに完成した。
弁財天前の川除が、後に松川除と呼ばれるようになったのは、二番堤の根固めとして松数百本が両側に植えられたからである。一番堤はさらに後年、近世末期の嘉永年間（一八四八～）に植えられたもので、弁才天社付近はさらに遅れ明治一四年（一八八一）に植えられたといわれている。
松川除が完成すると、農民たちは自然流を用水路に改修し、川跡を田地に変え、豊かな収穫によって安定した生活が保障されるようになった。そして、松川除が安定すると、堤防そのものが道路として活用され、**高岡街道**（中筋往来ともいう）となり、明治一〇年には弁才天社と対岸とに渡し舟が開設され中田など庄東方面への交通も盛んになった。
さて、この松川除堤防によって、砺波地方の村々がどのような影響をうけたか。流路が固定されたことによって、その廃川(はいせん)地が耕地に拡張され、村の草高も増大し各地に新村も生まれた。庄川地域でその代表的な村が青島で、草高は約二・五倍、高儀新村は約二倍に増大した。その増加のほとんどは、**旧千保川の廃川地の開墾**によるものであった。
青島村には開拓者甚三郎外一二人がまつった無格社八幡宮、開拓者**次右衛門**がまつった無格社稲荷(いなり)社があり、前者を「**甚三郎開**(びらき)」、後者を「**次右衛門開**(じょうもんびらき)」と呼ばれている。このような新開地には、よく「**開宮**(ひらきのみや)」あるいは「新開の宮」がまつられるが、種田地区にも「**与五郎開**」など数多くあったが、その後、合社あるいは廃社されたものが多い。
反面、前述したように、庄川が東の山麓に押しやられたことによって、庄金剛寺村や三谷村を庄川が貫流し、草高はそれぞれ半減したばかりか、後に対岸（西領）の分村騒動もおきるに至った。

##### 新開と村立て新開というのは山野・川原など不毛の荒地を新しく田畑に開墾することをいう。新開は藩主（役人）からすすめられる場合もあるが、百姓方から願い出ることもある。その名称も**田方新開・畠方新開**の二種がある。新開が大面積になり、その距離が本村から隔たっている集落は、明暦（一六五五～）・寛文（一六六一～）年間に、競って一村を願い出て独立する村が多かった。
庄川町域では、五ヶ村・筏村・高儀新村・示野新村がそれである。これらの村のなかで示野新村を除く三村は種田地区に属している。この種田地区で一番その村立ての速かったのは**古上野村**であった。

###### 古上野村「【**郷村名義抄**】には、この村は昔、上野村といったか、由来が知れない。とあるがしかし、かつて千保川の洪水で、居屋敷や田畠が流れたので上野村を立退き、高堀（福野町）・長源寺（福野町）・墓浦(はかのうら)（井波町）の領内へ引越し、別に上野村を立てた。その後、千保川の洪水もなくなったので、元和三年（一六一七）、それらの百姓のうち、元の村へ帰って荒地を開拓して一村立てとし、古上野村といった。かっての洪水の年が不明であるが、慶長一四年（一六〇九）八月の洪水ではなかろうか。」と【**越中志微**（近世後期の編）】に記されている。
古上野村には、近世初期の【**新開文書**】が多く残されている。前述の村立てを裏付ける史料として、元和四年（一六一八）一〇月一六日、古上野村の住人小兵衛に下付された、八段四二歩の「**新開検地図帳**(つもりちょう)」がある。この検地状は、小兵衛が先に新開を願い出、許可を得て開墾した田地に対して交付されたもので、小兵衛の所有を認めるとともに、年貢を課すもとになるものである。同村にはその他、元和から寛永年間のものが三通、元禄（一六八八～）遺構の新開文書も伝えられている。
しかし、先の元和四年の検地状に「古上野村」とあるにに、元和五年の【**利波郡村々家高ノ新帳**】に古上野村が記載されていないのはどうしたことか。村立て間もないため洩れたのか。

###### 五ヶ村【郷村名義抄】に、「この村、寛永（一六二四～）の頃、五ヶ山の内、大牧村与市郎と申す者新開仕り、村相立申すに付、五ヶ村と申す由に御座候」とある。寛永一七年（一六四〇）の【砺波郡壱拾弐粗村名附帳】に、「**五ヶ山新村**」として初めて登場、六年後の史料には「山」がとれ、「五ヶ新村」、さらに二四年後の寛文一〇年（一六七〇）の「村御印」には、「新」がとれて、はじめて「五ヶ村」となっている。同村は一時（正保三年－一六四六）古上野村に編入されたことがあるは前述の通りである。

###### 筏村この村は、**筏**(いかだ)**に乗って移住し、開墾した人々によって村立てがなされた**ために名づけられたという。同村の村立てされた頃は、東に千保川、西に新又(あらまた)中村川があり、その中洲を開墾したものか。正保三年（一六四六）の【利波郡高物成田畠帳】には、「筏新村」として登場するが、このときは古上野村に編入されていた。寛文一〇年にはじめて「筏村」として独立、一村立てした。
このように、庄川の治水が徐々にすすめられ、用水も整備されて荒野がひらかれると、そこへ移り住んだ人々によって、さらに新しい村がつくられた。○○新・○○出という名の村はこの時代にできたものである。種田地区では「高儀新村」、青島村地区では、「示野新村」・「庄新村」が相次いで村立て、その後「示野出村」・「髙野新村」ができた。

###### 高儀新村この村は「**高儀村**（福野町）」の住人が移住して開墾した、いわば出村である。同村は、旧千保川跡を開墾したため、比較的南北に細長く、飛地も多い村となっている。村立ての年月は明らかではないが、寛文一〇年にはじめて登場する。この高儀新村は前述したように、松川除築堤によって旧千保川跡の開拓につとめ、その後草高は倍増した。そして天保一〇年（一八三九）には、これらの新開地から「川除(かわよけ)新村」・「高儀出村」の二村が独立した。

###### 示野新村示野の地名のおこりは明らかでないが、示野新村は、**明暦三年**（一六五七）**に村立て**した村である。その地は第三河岸段丘上（二万石用水路の左岸）の原野で、もともと「示野」と呼ばれる未開地であったので、新しく開墾、村立の際、村名として「新」がつけられたものであろう。同じ砺波郡内（城端町南山田地区）に示野村があるが、両村との関係はないと思われる。同時代に同じ加賀藩内には、他にも示野村がみられる。
この村は明治二二年（一八八九）には青島村へ合併されたが、明治初期には戸数七〇を数えた。そのうち、同村の飛地が青島村中之島地内（第二〇・二一地区）に散在、家数も六戸みられた。

###### 示野出村示野新村の住人が同村領内未開地を開拓、そこに移り住んだことから名づけられた、いわば**出村**(でむら)である。村立ては近世の中頃、延宝元年（一六七三）で、新開草高は一一五石余が記録されている。この村立ての立役者は、その後も代々肝煎役（今の村長役）をつづけていた森松伝四郞家で、同地区に多い森松家の総本家といわれている。
現在の大字「示野」は、前述の「示野新村」とこの「示野出村」をいい、この両村はそれぞれ村社神明宮を別々にまつっている。

###### 庄新村この村は、寛文一〇年（一六七〇）青島村領内未開地において草高一八石余を新開し、一村立てしたものである。同年さらに五ヶ村・高儀新村領内未開地において一六石余を新開したが、この年九月、藩内のいずれの村々にも「村御印（物成帳）」が下付されているが、庄新村の村立てが九月以降になされたためか、【砺波郡村々物成帳】に記されていない。なお、この村は、**庄村の住人によって新開された**ので「庄新村」と名づけられたという。
この庄新村は、各地に飛地が多かったが、明治二二年には、その大半を占める種田村に合併された。明治初期には戸数四四を数え、後に青島地区の市街地区域となった中之島地内にも飛地が散在、家数も六戸みられた。

###### 高野新村この村は、文政七年（一八二四）、野尻野新村の住人が、**示野新村領内の未開地を開拓して、一村立したもの**である。そのときの草高は二〇石であるが、明治二二年の町村合併では、種田村に属し、大正二年大字「天正村」の誕生の際、高野新村二戸はそれに所属した。

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑭

〈地名のルーツ＝庄川町〉 榎木淳一

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