# 三　地名のいわれ（庄川町の小字名）
### 1　地形・位置・場所を示す地形（　）内は、大字名 ***
#### ［山・尾・嶺など］ *** **尾谷山(おたんやま)**（金屋）尾根と谷の起伏の富んだ山という意か。
**平地山(ひらちやま)**（金屋）平になっている山、すなわち低い山という意か。
**向草嶺(むこうそうれい）**（金屋）草嶺とは字義のとおり、草の繁った嶺（峰）で、向かいとは、村の中心部から、あるいは一般の家屋は日当たりのよい南側を正面にして建てることから、南の方向を示す。ソウレイという地名は、山地ばかりで、岐阜県を中心に長野・富山両県に比較的多くある。これらの地区は、山焼きでもしなくては作物のとれないところが多い。
**動山(いぶりやま)**（前山）字義からすると動く山となるが、この地帯は、庄川町から城端町にかけて高清水(たかしょうず)断層が延びており、その一画に位置していることから、地すべりや山鳴りがすることがあり、その鳴動がよくする山という意か。
**打山(うちやま)**（隠尾）山びこなど、反響の著しい山の意か。木こりの斧の音であろう。
**西尾(にしお)**（前山）・ **長尾(ながお)**（前山・小牧）字義のように、西の尾根（蜂）、長い峰という意か。
**鍬崎(くわさき)**（湯山）『崎』は『先』、尖端の意。高い山につけられる。字義のように鍬の先のような山という形容。鍬崎山は、牛嶽の砺波地方における古名である。牛嶽は昔、婦負郡側からの呼称で、「宇志多気」信仰の山、霊山である。県下では有峰（大山町）の近くにも鍬崎山があり、いずれの山にも、佐々成政が埋めたという黄金伝説がある。
**下山(しもやま)**（湯山）・**向山(むかいやま)**（落シ）・**外山(そとやま）・内山(うちやま)**（いずれも隠尾）村の中心部からの方向・位置を示す。
**寒原山(かんばらやま)**（庄）現在の小字名にない。三条山の南隣、舟戸ダムの対岸の一帯をいう。以前は金屋石が採掘されていた。『寒原』は『神原』とも書き、上方に『神原峠』がある。この峠は、夏でも涼しい（寒い）風のとおりみちとなっている。あるいは神が住んでいたと伝説があるのか。この神原峠を越えて（隠尾を経る）の旧道は、古く八尾道といわれ多くの人々が往来してきた。
**嵐山（庄）** この地名も小字名にない。庄川右岸、舟戸ダムより下流側一帯をいう。この名称のおこりは、大正期に青島の素封家が、対岸からの眺め(なが)めが京都の嵐山によく似ているところから名づけたものである。雨上がりの美しさは、当時「砺波嵐山」として県下に宣伝された。その範囲は、三条山を含めた付近の総称で、現在、山麓に雄神発電所、越中庄川荘などがあり、当時のおもかげは次第になくなりつつある。
**七百山(ひっちゃくざん)**（三谷）小さい山（峰）が多くある山のことか。すなわち七百とは、多数の意。あるいは仏語に関係あるか。
**腰切岩(こしきりいわ)**（前山）庄川左岸、小牧ダムから上流約一キロメートルの国道に、おおいかぶるような絶壁がある。この壁は、主に安山岩（一部緑色凝灰岩）の巨岩からなっていて、その型が人間の身体（胴部）のような曲線を描いており、ちょうど腰にあたる部分から下部が切れて、普通の山肌となっている。この形状から名づけられたものであろう。この近くに腰切滝もある。
**下(さが)り**（横住）坂地（傾斜地）の意か。横住から湯山への旧道・坂道付近一帯。
**坂栖(さかす)**（金屋）栖は休む・憩うという意に解すれば、坂を登って一ぷくするところという意となる。通称「金屋田んぼ」の北端、河岸段丘端付近である。

#### ［　谷　］ *** **脇谷(わきだん)・上(かみ)脇谷・下(しも)脇谷**（いずれも湯谷）脇は胸の両側面、いずれも村の中心部からの方向、位置を示すものである。
**谷内(やち)**（落シ・名ケ原・三谷）落シ・名ケ原の谷内は、谷内(やち)川の周辺、川内（河内(かわち)）などと同類で、谷間の小盆地をさし、比較的湿地が多くみられる。三谷地内を流れる谷地川は一級河川。古来、谷地川の流域は、「谷内郷（陽知(やち)）という。「和名抄、砺波郡陽知郷、越中旧事記にヤチ川があり、後の庄下郷にあたる。」という。
**広谷(ひろたん)・麻生谷(あそだん)・一の谷(いちのたん)**（いずれも庄）広い谷、麻が生繁っている谷、一番目の谷、という意か。
**尾の谷(おのだん)・天谷(あまたに)・滝谷(たきだに)**（いずれも三谷）尾の谷は峰に近い谷。天谷は、社寺に対して上方の意。滝谷は滝のある谷、という意か。
**加羅谷(がらだん)**（庄）伽羅(から)は朝鮮南部の古い国名。高瀬神が高麗(こま)人（朝鮮北部の国）であったとすれば、雄神神社付近のこの地にも伽羅人が住んでいたのかも知れない。加羅(がら)は、『ガラ』落ち（急に落ちる）のガラの借字で、急傾斜な谷の意であろう。三条山と寒原(かんばら)山の間にある谷。
**二ノ滝(にのたき)**（三谷）二つ目の滝のあるところという意か。

#### ［　平　］ *** **上平(うわだいら)**（湯山）・**大蔭平(おおかげひら)**（三谷）上は位置を示し、大蔭とは山の北面で、いつも日蔭になっているところという意か。
**若土平(わかつちびら)**（横住）雑木林を焼いて開墾した新しい土地、すなわち焼畑による土地か。

#### ［林　・　薮］ *** **表林(おもてばやし)・下薮(しもやぶ)**（いずれも二ツ屋）表・下はいずれも方向・位置を示すもの。
**狐林(きつねばやし)**（金屋）昔、狐がすんでいた林という意か。昭和初期の耕地整理事業によって、その名残が見られなくなった。その他、現在の小字名にないが、**新林(あらばやし)**（金屋）は荒林の変化したものか。

#### ［田・畑・畠］ *** **畑直(はたなおし)**（金屋・青島）加賀藩時代、荒地（畠）を田地に開墾することを「畑直」といった。近世になって開墾されたところ。畑直のことを別称「やかんまち」と今でも呼ばれているが、そのいわれは不明である。古老の伝えでは、ここの開拓者は増山城（砺波市）の家臣と深い関係があるという。
**大反保(おおたんぼ)**（金屋）井波町との間の通称「金屋田んぼ」の総称で、『反保』は『田圃』の意。昭和初期の金屋耕地整理事業によって、広い原野が田地に開墾された。しかし、それ以前にも、その一部にこの地名があったといわれている。その他、金屋地区で、現在小字名にない地名に、**田畑(たばた)・砂畠(すなばたけ)** がある。田畑は、田の中に畑がある場合、あるいは田や畑が入り混ざっている土地をいうのか。砂畠は、地味の劣る砂地の多い畑という意か。加賀藩時代、田地割に際し、これらのやせ地に、『砂』とか『金』をつけた例が多くみられる。
**上畑中(かみはたなか)・下畑中(しもはたなか)**（いずれも三谷）上・下は位置を示し、畑中とは、一面広い畑となっていた一画を示すものか。
**砂田(すなだ)**（天正）砂地の多い地味のやせた田地の意か。もともと川原を開墾したところ。
**麦田(むぎた)**（青島）野生の麦が生繁っていたところという意か。

#### ［野・原・担など］ *** **南部野(なぶの)・西野々(にしのの)**（いずれも金屋）『某』という人が開拓、あるいは住んでいたのか。
**散野(ちりの)**（青島）字義のように野原が散在していたのであろうか。
**小原(おはら)・上小原(かみおはら)**（いずれも湯谷）・**中原(なかばら)**（湯山）小原とは、小さい野原、上は位置を示すもの。中原は、何かと何かの間に位置する野原という意か。
**松原(まつばら)**（示野）松の繁った原という意か。第三河岸段丘の北端にあり、先住民の縄文遺跡が発掘されたところ。明治以前は松原上野村（井波町）の飛地となっていたことから、松原のみが残された。
**ひじが原(はら)**（横住）池や沼もないから菱(ひし)（水草）もはえていなかっただろうし、肘の「く」の字形によく似た地形から名づけたものか。
**上野手(うわのて)・下野手(しものて)**（いずれも三谷）野手の『手』は、手前とか手もとの意か。『ノテ』という地名は、村と村の間の家の無いところによく見られる。あるいは、『野手』は中世の頃、野の収益に雑税が課せられたところか（野手米）。上・下はともに位置を示すもの。
**天野(てんの)・上野(うえの)（いずれも三谷）** 天・上ともに位置を示し、天は特に高い位置、あるいは社寺の上方を示すものか。
**上担(うわだん)・下担(しただん)**（いずれも庄）担（壇）は段々畑の『段』で、庄川右岸沿いの河岸段丘のことで、上・下はその位置を示す。
**上間(じょうま)**（金屋）『間』とは、何かの間にはさまれた空間・空地をいい、上は位置、もしくは高所（段丘の上）の意か。
**北窪(きたくぼ)**（示野）北は方向で、『窪』とは窪地の意で、昔の川跡であっったのであろう。
**原出(はらで)・大(だい)**（いずれも金屋）この両地は現在の小字にないが、金屋第三区の総称として用いられている。「出」は、親村に対する子村、すなわち、出村の意によく名づけられる。原は、古くひらけたという小川原のことか。大は、原出の東、了安（後述）の南に位置する丘陵地であるが、その広さを示すものか、あるいは、大○○、○○大といった略称かも知れない。

#### ［川原・河原・𥒎・牧・瀬］ *** **小川原(おがら)・川原(かわら)**（いずれも金屋）両方とも往古の庄川の川原である。『小』は大小をあらわしている。小川原は、舟戸ダムより上流側。合口ダムができてからは、河岸段丘上に細長く、集落が連なっている。川原はそれより下流側で、加賀藩時代の『金屋川原』をいうものか。
**下川原(したがわら)**（青島・金屋）二万石用水（昔の庄川分流、野尻川）の左岸・南側で、川原であったところ。『下』は、何に対してか疑問であるが、あるいは、古くひらけた金屋地区（第三河岸段丘上）に対してか。
**前河原(まいがわら)**（高儀新・筏）・ **外河原(そとがわら)**（筏）庄川の分流、千保川筋の川原であったところで、『前』・『外』は方向・位置を示す。
**𥒎(がけ)**（天正）𥒎（崖）は、一般に海または川岸をさすが、石のゴロゴロした川原のこと。あるいは磯(いそ)の転字か。
**北牧(きたまき)・矢ヶ瀬(やがせ)**（いずれも小牧）北は位置、すなわち小牧村の下流側。『牧』は、牧場でなく水が『巻』くところ。矢ヶ瀬とは、矢のごとく速い瀬のあったところで、両岸が互いに迫っている。昭和初期、ここに小牧ダムが建設された。
**金屋牧(かなやまき)**（金屋）現在の小字名にない。別称「合渡牧銚子(ごうとまきちょうし)」といい、小川原地区の上手の俗称。庄川の左岸、小牧発電所の下で、赤岩の対岸一帯をいう。合渡(ゴート) ・牧（巻）、いずれも庄川の流れが逆巻くところをいい、ゴートと呼ばれるところは庄川には数多くあった。流木を職業としていた流送夫（川狩り船頭ともいう）には、舟の転覆しやすい難所として恐れられていた。中でも、細島（上平村）の白石、上梨（平村）の二ツ岩、杉尾（平村）の玉石は三大難所といわれ、また事故多発地帯であった。ゴートとは、水の流れる音（ゴー）を意味するものか、あるいは、両岸が接近し、その上、大きな岩が『戸』を立てたようになっていることから名づけられたものであろう。銚子(ちょうし)とは、この地が、古くから山見八ヶ用水・新用水・野尻岩屋口用水（現二万石用水）など、砺波地方を潤す用水路の取水口が設けられていたことから、豊富な庄川の流れが、赤岩によって川幅をせばめられ、あたかも酒トックリ（銚子）のごとく取水口へ注ぎこむような地形になっているので名づけられたものであろう。

#### ［その他］ *** **村中(むらなか)**（小牧・三谷）・**村上(むらかみ)**（落シ・隠尾）村の中心部、あるいは上手という位置をさすもの。

※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑯

〈地名のルーツ＝庄川町〉 榎木淳一

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