### ５　宗教・歴史・産業などを示す地名 ***
##### ひじが原(ひじがはら)（横住）ひじは『肘』のことで、肘のように「く」の字形に曲がった地形の意か。あるいは、聖(ひじり)（高野山の下級僧＝高野聖）が住んでいたのかもしれない。高野山は、空海のひらいた真言宗総本山金剛峰寺の略称。奈良から平安時代にかけて、立山や白山の霊山は、天台宗の勢力下にあったといわれるが、庄川筋には両勢力は及ばずその後はむしろ、真言宗当山派修験者（山伏）が入りこみ、牛嶽はその拠点になったという。こうして「**牛嶽信仰**」の普及とともに、牛嶽は山岳信仰の霊山として栄えたといわれる。（後述「大滝平」参照）この『ひじ（り）が原』に前述の横住村（大字）の項で述べたように、山伏修験者の宿坊があったのかも知れない。

##### 京坂(きょうざか)（金屋）『京』は『経』で、経塚(きょうづか)（墳墓）がなまったものである。この地区は、河岸段丘の斜面を中心に位置しているので、いつのまにか『塚』が『坂』になったのであろう。『東山見村史料』に、「昔時、光照寺の居屋敷にして、同寺第一世了西房弘願(りょうせいぼうこうがん)、真宗の門に帰したる際、相伝の黄巻赤軸を墳墓に築きて、これを旧跡に納め、二丁余（約二〇〇メートル）南方の高き桑原の地に卜(ぼく)し、一門の霊地とせり。現在の光照寺これなり。しかして、もとの納経の近辺を『経塚』と名づけしが、中古より京坂と転称するに至れり。旧跡井戸付近に住みし家を**池端**（井戸の端の転）と俗名を付せり。」という。

##### 了安(りょうあん)（金屋）金屋にある西蓮寺の第八世了安(りょうあん)は、京都本願寺八代蓮如(れんにょ)上人の感化を受け、井波瑞泉寺の開基綽如(しゃくにょ)上人（本願寺第五代）の由緒地、杉谷山の近くである同地に堂宇を建立、蓮如上人より寺号を西蓮寺と賜る。同地には、一七世了意(りょうい)まで住まいしていたが、元禄二年（一六八九）、同地より北西、およそ五丁（約五〇〇メートル）離れた現在地に移り、旧地は里人に与えた。同地には、近年まで（金屋耕地整理前）同寺の開基である報徳房（了安の法名）の墓、寺跡などが残っており、その付近一帯を「**了安の聖地**」といわれていた、と『東山見村史料』にしるされている。

##### 大宮野(おおみやの)（金屋）金屋神明宮の旧社地があるところ。同宮が現在地に遷座したのは、文化一三年（一八一六）三月と同宮縁起にしるされている。同地は、現市街地の南の山一帯をいい、その一画には「井堰(いせん)神社」や「金剛坊跡」もある。旧社地の北方、やや低いところに東金剛坊・西金剛坊という真言宗数ヵ寺の寺屋敷跡があった。非常に豪華な坊跡で、二カ所につづいた約二千坪（六、六〇〇平方メートル）のところで、特に東金剛坊跡には、六〇間余（約一一〇メートル）四方に高い土壁（とりで）が築かれていたが、金屋地区耕地整理（昭和四年～一一年）の際に発掘され、土器・金属の仏具類を採取したという。今では、田や畑に変わり、出土品もその後散逸し、所在が明らかでないのが残念である。

##### ○場(にょうば)（名ヶ原）○は扌に込ニョウ場とは、藁ニョウをするところであると前述したが、さらに地名としてそのおこりをみると、ニョウ場のニホ・ニョウのつく地名は、全国でも東日本によくみられる地名で、田の神・稲の祭にからんで、農耕神降臨の場所であるといわれる。したがって、その位置は、村の日当たりのいい山頂もしくは、小高い丘にある場合が多い。この地は、大字名ヶ原の集落地（小字名「中寺(なかでら)」の、北方の奥まった山一帯をいい、その中腹（小字は中寺）に、村社「**瓊々杅社**(ににぎしゃ)」がある。ニョウは、仏語に起源する「鐃」の意とすると、御堂のまわりをめぐって法会を営む場所ということになり、小字中寺と隣接することも含め、いずれにしても、神あるいは仏の信仰に深い関係がある場所といえるかも知れない。

　 ※　このページは、榎木淳一『村々のおこりと地名』〈地名のルーツ＝庄川町〉（1979年）をもとに作成したものです。

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村々のおこりと地名⑲

〈地名のルーツ＝庄川町〉 榎木淳一

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